名のない足跡
…そうだった。
国民も全員聞いてるんだった…。
すっかり忘れていたあたしは、自分のマヌケさを呪った。
アゲートさんは、マイクについているボタンを押した。拡張ボタンだと思う。
この先は、全て国民のもとへ届けられる。
「…それではこれより、第二十七代新国王ルチル=セレナイト様の、戴冠式を開会します」
まず始めに、と、アゲートさんは父様の死因について話し始めた。
父様の死因については、"病死"ということになっている。
"自殺"となると、生じる問題が大きくなるからだ、とアゲートさんは言っていた。
部屋中が静まり返って、アゲートさんの話しに耳を傾けている中、あたしは誰にも気づかれないように、ライトが握ってくれた左手を、もう一度軽く握り締めた。
「…おわかりいただけたでしょうか。では次に、王冠授与を行います」
アゲートさんが指を鳴らすと、二人の執事がガラスケースに入った王冠を持ってきた。
二人の執事があたしの目の前で止まると、ライトが一歩前に出て、ケースから王冠をそっと取り出し、あたしの前に立つ。
「座ったままでいて下さいね」
そう笑いながら言ったライトは、王冠をそっとあたしの頭の上へ乗せる。