名のない足跡
「ちょっといいか?話があってな」
ライトが反応して、一歩下がる。
「…下がった方が?」
「いや、平気だ。ライトも聞いてほしい」
そう言うと、デュモル隊長は声を潜めて話し始めた。
「…姫さんが王位継承をしてから、文官・武官、併せて三十名が失踪した」
「しっ…失踪ですか!?」
「そう。朝の点呼時に無断欠席。連絡取ろうにも全く消息が掴めない、ってことがこの二週間で三十件」
あたしは軽くショックを受けた。
そんなに、この城に居るのが嫌になったの!?
「護衛部は、大丈夫でしたよ」
ライトが腕を組み、壁に寄りかかって口を開いた。
「いなくなった奴らは、書籍部と戦闘部に入ってた奴らだけなんだ」
「…それは、もしや…」
「えっ!? 何!? 何なの!?」
いかにも、何が起こっているのかわかっていそうな、二人の雰囲気に取り残されたくなくて、あたしはライトとデュモル隊長を交互に見る。
「いいか、姫さん。いなくなった奴らは、みんな入部するのが簡単で人数が多い書籍部と戦闘部に所属。しかも全員下っ端。消えても気づかれなさそうな奴らばっかだ」