名のない足跡
†††
カルム城の書庫では、ある青年が書物を読みあさっていた。
彼の側には、分厚い本の山。
そして今、その中の一冊を手に取り、猛スピードでページをめくっている。
誰かがこの光景を見たら、間違いなく彼を遠巻きにするであろう。
何しろすごいオーラが漂っている。
幸い、書庫には本と彼しかいないのだが。
男性にしては少し長い銀髪を耳にかけ、イライラとした様子で彼はぼやいた。
「くっ…わからない…ええい、いまいましいッ」
「セドニー長官っ!!」
そこへ、一人の女性が騒々しく書庫へ飛び込んできた。
艶やかな赤毛の長い髪を揺らし、何やら緊迫した面持ちで、その場にいた青年、もといセドニーに呼びかけた。
「うん?何だロード。ここは書庫だぞ、静かにしたまえ」
ロードと呼ばれた女性は、上司をキッと睨む。
「大切な用件なのですよっ」
「私だって大切な読書中だ」
「どうせ誰かとの会話でしょーもない疑問抱いて、資料漁ってんでしょうっ」
「ぐっ…」
セドニーは言葉につまった。
まさにその通りで、先ほどの会話中での疑問を調べているところであった。
―しかし、しょーもないとは何だ。しょーもないとは。