名のない足跡
おそらく、この世界最大の権力をもつ、大国ウェルス。
科学技術が発展した国、ネスタ。
砂漠に囲まれ、商人が行き交う国、サヴァ。
フォーサス国は、ウェルス国に次ぐ規模なので、そこらへんの小国に潰される心配はない。
でも、ウェルス・ネスタ・サヴァの三ヶ国に関しては、うまくやっていかないと、大変危険。
特に、ウェルス国の王、ウィリーは、冷徹な人間とよく聞く。
なんでも、目障りな国は、すぐに自分の支配下に置くとか。
…それゆえ、大国になったとか。
あの時、メノウ交易官は、初めて口を開いた。
「…さすがにこれからのことを話すのに、紙に書いていては日が暮れる」
あたしたちが訪ねてすぐ、メノウ交易官はあっさりと話し始めた。
声を聞いたことのない、あたしとライトが驚くならまだしも、ウィンも驚いた。
絶句しているあたしたちを見て、メノウ交易官はムスッとした表情のまま言った。
「そう、呆けてくれるな。私のこの声は、コンプレックスだ」
「こ、こんぷれっくす…」
「物心つくころから、私の声を聞くとすぐ、皆ぼうっとする。全く不愉快だ」
…それは、あなた様の声が非常にお美しいからです…