名のない足跡
何ともいえない、声の質、深さ。
耳元で囁かれたら、失神確実!ってほどキレイな声。
「この声が役に立つのは、取引をしている時だけだ」
メノウ交易官のため息を聞きつつ、あたしは納得。
ナルホド、こんな声で取引申し込まれても、うっかり聞き入ってしまったら、何を言われたのかわからない。
そしてうっかり、同意してしまう…と。
うん、相手の人…気の毒。
そんなことを考えながらも、あたしはズバッと本題に入る。
「メノウ交易官、父が王だった時と、あたしが王になってから。そのときの商品流通等の件で、何か変わった点、もしくは妙な点はありませんか?」
メノウ交易官は、一瞬驚いた表情をして、また元のムスッと顔に戻った。
「…特に何もない。そのことが妙だ」
「え…」
何も変わっていない?
確かに、その方がおかしい。
「さすがに私も覚悟したんだ。今までとは勝手が違う。流通が困難になるかもしれない、と。しかし、どの国も変わらない。全く、今まで通りだ」
王が替わった。
そのことは、他国に何らかの影響を及ぼすはず。
貿易、という唯一の国同士の接触が、何も変わらず行われた…?