名のない足跡
でも、ウィンはあえて突っ込まないようにしたらしい。
そっちの方がありがたいけど。
「…あんたさ、あの護衛隊長と親しいのか?」
「ライト?何で?」
「護衛隊長のこと見る目が、特別って感じがした」
一瞬、あたしは目を見開いてから、ゆっくりと止まっていた手を再び動かした。
「…うん。そう。ライトは、特別なの」
手を休めることなく、あたしは話を続けた。
「あたしが…五歳の時かな。父様が、ボロボロのライトを拾ってきて。あ、ライトはね、その…両親に捨てられちゃったらしくて」
ペンのインクが切れかけたので、またペン先をインク壷に浸す。
「父様が城に連れてきたとき、あたし木登りしてて。でも枝折って落下して…近くを通った父様にすっごい叱られてね、その時、ボロボロのライトの姿を見つけたの」
あの時のライトの姿は、今でも目に焼き付いていて、離れない。
「何でかな…あたしはその時、"笑わせてあげなくちゃ"って思ったの。だから、思いっきり笑いかけてあげた。…そしたら、ライトも小さく笑ってくれたの」
よかった。
この子は、まだ心が生きてる。
小さいながら、そんなことを思った。