名のない足跡
「それから、ライトは八歳なのに武術学んで、護衛部に入って。十二歳であたしの護衛になって。今思えば、父様があたしたちがよく一緒に遊んでたから、考慮してくれたのかもね」
一緒に笑って、一緒に泣いて。
ライトと過ごした時間は、きっと一番長い。
何度も救われたから、救ってあげたいと思う。
あたしがライトに出来ることは、笑わせてあげること。
それは出会った頃からの、小さな小さな誓い…
「ふーん」
「…そっけない感想ねー。あっ、ライトにはこの話に触れないであげてね?昔のこととか思い出したくないこともあると思うから」
「…あんた、気付いてないのか」
ウィンがぼそっと呟いた言葉が聞き取れなくて、あたしは聞き返す。
「へっ?何?」
「いや、何でも。つか、書けたのか?」
「もうちょっと。フォーサス国…ルチル=セレナイト…、っと、出来たッ」
完成した手紙を三枚、十分に乾かしてから、くるりと丸め、赤いリボンで軽く結ぶ。
あたしは、ファイルも抱えて、執務室を飛び出そうとする。
「出しに行ってくるね、ウィン!」
「ちょっ、おい!」
「うぷッ」
勢いよく扉を開けて廊下に出ると、誰かにどんっとぶつかった。