名のない足跡
「…姫様、ウィンは、姫様を手伝おうとしたんだと思いますよ。本を運ぶことじゃなくて、選ぶことを」
あたしが反論しかけたので、ライトは最後の言葉を付け足した。
あたしは少し下を向き、声にならない返事をした。
「そうですね、ウィンは、姫様に頼ってほしいんじゃないですか」
「…え?」
「一度、何でも俺に聞くな、と言った事、彼は後悔してると思いますよ。それっきり姫様は、何でもご自分でやろうとしてましたし。寂しかったんですよ」
「…寂しいなんて、ウィンが?何かやだ」
あたしは寂しそうな顔をするウィンを想像して、笑った。
ライトも少し微笑んで、続けた。
「せっかく頼られたのが、本を運ぶこと。拍子抜けしちゃったんでしょうね」
「…すごいなぁ、ライトは」
さっきのウィンの去り際の表情を思いだし、あたしは苦笑した。
言ってくれなきゃわかんないよ、そんなの。
「ライト、その本、執務室まで運んどいてもらえる?」
「了解しました」
あたしは、ウィンを追って走った。
ウィンの後ろ姿を発見したあたしは、思いっきりその背中をばしっと叩く。