名のない足跡
「…大した理由じゃないんだけどね。女の人が王だから、まだ気が楽かなーって」
あはは、と笑ながら言った瞬間、コテン、と右肩に何かが当たった。
驚いて右を見ると、ウィンがすやすやと眠っていた。
「えっやだ、ウィンってば。寝ちゃったの?」
「代わりましょうか?」
左隣にいるライトの提案に、あたしは軽く首を振る。
「んん、大丈夫。動いたら起きちゃうと思うし」
ちらっとウィンを見ると、何とも居心地よさそうに眠っている。
いつもの意地悪要素の欠片もない。
―――うわっ、まつげ長ッ
少女マンガに出てくるような感想を抱きながら、まじまじとウィンを見てしまう。
こうして見ると、やっぱかっこいいんだけどなぁ、と思う。
口が悪いせいで、かっこよさ半減するんだけど。
「…ねぇ、ライト」
「はい?」
「ウィンに言葉遣い教えてあげて、今度」
唐突な言葉に、ライトは「はあ」と首を傾げる。
「言葉遣いをどうにかしなきゃ、好きなコ出来ても嫌われちゃうと思うのよね」
真剣に話すあたしを見て、ライトは笑う。
「ウィンの恋愛の心配ですか、姫様」
「だってあたしの補佐なんかしてたら、出会いなさそうなんだもん」