夕焼け色の時
眉を寄せた表情に、抱きしめたいような愛しい気持ちを感じながら、私はその世界を映す瞳を見つめた。
「夕焼けに染まる、この世界はこんなにも美しい……だけど、この美しい景色が、あなたには、ちゃんと見えている?」
オレンジ色に照らされた数秒の沈黙の後、その子は頬を包んだ私の手を振り払い、顔を背けた。
「…………変な女」
ポケットに手を入れ、歩き出したその子は、屋上へのドアの手前で立ち止まった。
「わけわかんない言ってないで、さっさと帰れば?そろそろ警備のおっさんが来る」
負け惜しみのように言うその子に、ええ、と返して、私はもう一度、夕暮れの空に向き直る。
「…………良かった……これでもう、思い残すことはないわ」