夕焼け色の時
「……そろそろ行ってやんねえと」
猫に言われて、私は住宅街を挟んだ正面の建物の、カーテンをひかれた窓の一つに目を向ける。
人の肉眼では見えないはずの、その部屋の中の様子が、私には手に取るようにわかった。
「……ええ、そうね」
1台のベッドが置かれた病室に集まった数人の男女が、不安に顔を曇らせ、涙をこらえている。
彼らが取り巻くベッドには、何本かのチューブに繋げられた、死に行く肉体
「ありがとう。今まで」
微笑みかけると、縞模様の猫は拗ねたようにそっぽを向いた。
「見慣れねえ若い女に言われても、嬉しかねえや」
こういった形で会話をしたのは初めてだけれど、猫は思っていた通りの性格のようだ。