夕焼け色の時
「若返りたいと思っていたわけではないのだけれど、この景色を見て、あの人を思い出したからかしらね。女学生の頃に戻っていたみたいだわ」
うふふ、と笑った声が、瞬く間に変わり、ここ数十年に馴染んだ低く落ち着いた声になった。
「ま、大した違いはねえんだけどよ。俺としては……なんつーか……見慣れてるからよ。こっちの方が落ち着くぜ」
喉を鳴らす時のように目を細めた猫の言葉で、私は声と共に、自分の見た目が見慣れた姿になったことがわかった。
肉を持たない体は、身軽なだけでなく、心のままに変化する便利なもののようだ。
最初で最後の貴重な体験を楽しく思いながら、私はお尻をついて座った猫に近づき、その額をそっと撫でた。
「いい子でね」