冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
社長は、爆弾発言だけ落として何処かに行ってしまったし、西原先生は、楽しんでいる。どうしよう。


そもそもこの捻挫は元はと言えば、私の前方不注意が原因。


今の私に出来ることといえば、こっそりと逃げること。西原先生が慣れた手つきでギブスで固定してくれている。


社長は、少し出てくるとさっき部屋を出て行った。逃げるなら今。


逃げてしまえば、私がどこの誰かなんていちいち調べたりすることもないはず。


あんな雲の上の方と至近距離でほんの少しの時間、会話できただけでもシンデレラのような夢のようなひと時だった。


今日は大好きなバッグも買えたし。そう思って、紙袋を手にしようとして気がついた。あれ?紙袋がない。慌てて目で探すも見当たらない。どうしよう。私のご褒美だったのに。


「どうしたの?キョロキョロして。リョウ?」


「い、いえ、あの紙袋、ピンクの紙袋知りませんか?」


「・・・紙袋は俺が預かっている。手当てがすんだなら行くぞ」


そう言われ、グッと手を掴まれた。大きくて温かな力強い手に引かれ、ドンドンと進む社長に着いて行くがまま。「お大事に」と西原先生には手を振られ、私はなすがまま。


そして、自分の意見など当然言えないまま、私は社長の車にもう一度、乗せられることになってしまった。
< 10 / 152 >

この作品をシェア

pagetop