冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
「す、すみません。送っていただいて。でも、面倒を見ていただかなくても、本当に私、大丈夫です。西原先生に言われた通り、病院も通います」


家の前まで送ってもらい、そう言うと冒頭の言葉が返ってきた。さすがにここに住んでいることは親にも言っていない。


確実に反対されるのはわかっているから。でも、ここしか選択肢がなかった。予算的に。


「すみません。その、お恥ずかしい話、生活がギリギリで、家賃の安さで選んだようなものなんです」


「・・・何もなかったのか?お前の他に女性なんて住んでいないだろう?」


「何も?たまに洗濯物がなくなったり、帰りに誰かにつけられてたりとかはありますが特には」


「君」から「お前」に変わったことが少し、ドキっとしたけれど私の言葉に、社長は大きくため息をついて、運転席のドアを開け、外に出た。すると助手席のドアが開かれ、また左手を強く引かれた。


「とりあえず簡単にまとめられるものだけを持って出てこい。他の荷物は明日、引越し屋に依頼する。とにかく、お前は今日限りでこの部屋を出て、うちに来い」


「う、うちに?ど、どういうことですか?」



「言っただろ?責任もって面倒をみると。部屋の前まで行く。中には入らず、待ってるからすぐにいるものだけ持って出てこい。分かったな?社長命令だ」



「そ、そんなの無理です」


社長の家に来い?そんなこと言われてもそんなの無理に決まってる。


それなのに、社長命令だけでなく、「俺にこんなところに通えというのか」とまで言われてしまい、お断りをしても聞いてはもらえない。


結局、押し切られる形で了承するしかなかった。
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