冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
社長の革靴の音と私の靴音が、階段を、一段、一段登るたびに響く。それくらい階段もボロボロな鉄の錆びたもの。

こんな階段を社長の高級な革靴で上ってもらうのも申し訳ない。それなのに、結局社長は、私の部屋の前まで一緒に来てくれた。


「あの、こんなところでお待ちしていただくのも申し訳ないので、よろしければ中に入ってください」


家の鍵を開けて、クルリと振り返り、そう言うとあまりにも社長との距離が近くて驚いた。


しかも更にその距離を社長は縮めようと私に歩み寄ってくる。



「・・・知らない男を部屋にあげるのか?お前は」

背中にはドア、目の前には至近距離の社長。自分の言った言葉の意味をやっと理解した頃には、心臓がバクバクいって思わず、ギュッと目を瞑った。


「・・・もったいなくて、食べられないな」


少しずつ、目を開けると、はにかんだように笑う社長の顔。頬に感じた感触は社長の長くて綺麗な人差し指、一本。


「あ、あの・・・」


「その反応たまらないな。いい、俺はここで待ってるから早く用意してこい」


「はい」とだけ返事をして、急いで家の中に入った。まだ心臓がドキドキと音を立てている。なんだったんだろう、さっきの。


左頬に感じた熱が全然引かない。なんだか無性に恥ずかしくて右手でそれを覆った。
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