冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
「二十三か。俺と八歳も違うのか。若いな。それなのに、立派な話し方で偉いな。でも、メガネを掛けてるときは気軽にな。後、俺のことも肩書きで呼ばずに、名前で呼んでくれていいから」


「そ、そんな、と、とんでもありません」


と言い掛けると、すかさず唇にまた人差し指。目を見開き、驚くと、社長はメガネを外し、小さく首を振った。


「敬語はさすがにやめるの無理かもしれないけど、家でまで『社長』は窮屈だって言っただろ。ならこれも、社長命令にしようか」


「それ、本当に断れないので、困ります。わかりました。でも、社長命令なので努力します」


「ああ、今日からよろしくな」


私の言葉に満足げな表情を浮かべた社長は、シンプルな黒縁メガネをまた掛けた。どうしよう。

黒縁眼鏡のスーツ男子。しかも社長。こんな極上の男性の隣ですごく困惑してしまう。


「聞いてるか?今日からよろしくな」


「は、はい。よろしくお願いします」


返事を促され、とりあえず答えてはみたものの、本当にまだ夢心地。それに、今日は、よく社長の手に触れている。


昨日までは全く想像もできなかったこと。社長のことは、芸能人のような雲の上の存在だと思っていたし、こんな至近距離で会話を交わすなんて、一生ないと思っていた。
< 16 / 152 >

この作品をシェア

pagetop