冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜

私の言葉を最後まで聞かず、社長は、運転席から身を乗り出し、私のシートベルトを締め、自分のシートベルトを締めると車を発進させた。


「・・・本当にすまなかった。どこか痛むところはないか?」


「はい。本当に大丈夫です。すみません。お手を、煩わせてしまって」


「君が謝ることではないだろ。もうすぐ着くからそこでしっかり診てもらってくれ」

こんな至近距離で、あの有名な社長と話をしていることがまるで夢のよう。だけどさっきからジンジンと痛む右手。


それが夢ではないと教えてくれているみたい。あんなに苦手意識しかなかったのに。緊張で社長の顔を見ることは出来ず、ずっと俯いたまま会話をしているけれど、社長の少しだけ低めの落ち着いた声が私の胸を熱くさせた。


「それ、うちのバッグか。君も買わされたのか?」


「買わされた?いえいえ、私はずっとこのバッグが、欲しくてやっと今日、買えたんです」


「・・・そうか」


言葉を交わせば、交わすほどあの日に見かけた社長とは違いすぎて、違和感ばかり感じる。でも、絶対に関わることなんてないと思っていた社長の車に乗せていただいて、今、隣に座っているなんて本当に信じられない。



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