冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
絶対無理。直接関わりがないとしても三宅さんが社長を知らないはずがない。絶対に呼べない。

それなのに、三宅さんは串を持ってきた店員さんに私が対応している間に私の携帯から社長に電話を掛けていた。


「ちょ、三宅さん!」


急いで切ったけれど、すぐに掛け直してきた社長。携帯には社長の名前が大きく表示されている。それを見られるわけにはいかなくて両手で携帯を隠すようにしたけれど、鳴り止まない。


三宅さんは「出なさい」と急かすし、きっと今出なきゃ何度もかかってくるかもしれない。


「も、もしもし」


「みぃ、どうした?今から帰ってくるの?迎えに行こうか?」


電話越しに聞こえる社長の声はいつもと違って少しだけ低い。でもそれが涼が来たときに怒っていた声と違い、色っぽくてドキドキする。


それなのに、やっぱりまた違和感。


「あの、あのー!どうして急にそんな話し方になったんですか?服装も変えちゃって違う人みたいに見えて、私、前の方が好きです」


言った後で後悔。今更口を覆っても無意味。社長の返事も待たず、電話を切ってしまった。私がずっと抱いていた社長への違和感。服装もそうだけれど、一番は口調。


ちょっと高圧的な話し方だったのに急に優しい口調に変わってしまった。私は社長のあの話し方が好きだったし、できるなら戻ってほしい。
< 76 / 152 >

この作品をシェア

pagetop