遠まわりの糸
ストーカーみたいだけど、泉川の家の前で待ってたら、ドアが開いて泉川が出てきた。


泉川は、淡いグリーンのブラウスに、ベージュのパンツ。


私服初めて見たけど、俺の好み。


「よお」


「あの・・・待ち合わせは駅ですよね?」


「そうだけど、泉川メガネないから、駅まで歩くのも大変かと思ってさ」


ほんとうは、なるべく一緒にいたいっていう、不純な動機だ。


メガネの話は、必死に考えた後付けだ。


「そうですか・・・ありがとうございます」


「裸眼だと、ほとんどボヤけてるんだろ?


俺は視力いいからさ、よくわかんねーけど」


「正直、今も橋本くんの顔はよく見えないです」


すぐ近くにいるのに、見えないんだな。


「じゃあ、早く新しいメガネにしないとな。


っていうか、俺のせいだよな、ほんとにごめん」


「いいんです、私がボーッとしててよけられなかったんですから」


「じゃあ、行くか」



俺にしては、頑張ってしゃべった方だ。


なんとかして、泉川との距離を縮めたい。



俺、やっぱり、泉川が気になってるんだ。



「泉川さ、前から思ってたんだけど」


「はい」


「同級生なのに、なんで敬語?」


「まだ顔と名前が一致したばかりなので、その・・・」


「その?」


「・・・緊張してて」


悪いとは思ったけど、笑っちまった。


「ごめん、緊張が理由だとは思わなくてさ。


でも、俺らはもう、ただの顔見知りじゃないだろ?


同じ幼稚園だったんだし。


泉川も普段はきっと、お母さんみたいな感じだろ?」


「あそこまでオシャベリじゃない・・・です」


「いま、語尾ちょっと考えてから言っただろ。


無理にとは言わねーけど、ちょっとずつでもいいから敬語やめてけよ、な?


まずは、そうだな・・・『あおい』って呼ぶから、葵も俺のこと『さく』って呼べよ」


「えっ、それはちょっと厳しい・・・です」


「だんだんでいいからさ、な?」


「う、うん」


「おっ、葵、その調子」


俺は、自分の行動が信じられなかった。


今まで、こんな風に自分からガンガン話しかけることは少なかったから。


葵の前ではなぜか、自分らしくいられる気がした。

















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