遠まわりの糸
やべーよ、俺。


葵のこと、すごい気になってる。


葵のこと、もっと知りたい。



俺を見上げる上目遣い。


幼く見える笑顔。


手をつないだら。


髪にふれたら。


抱きしめたら。


キスしたら。


どんな気持ちになるんだろう。



「・・・朔?」


「えっ?」


いま、俺のこと『サク』って呼んだよな?


「どうかしたの?」


「あっごめん、なんでもない。


いや、なんでもなくない」


妄想してたなんて、言えるわけない。


「へんなの」


「いま『サク』って呼んでくれたから、嬉しくてさ」


これは、ほんと。


「お店、ここだよ」


店内は、色とりどりのメガネと、きれいに磨かれた鏡と、俺にはわからない機械。


メガネに縁のない生活の俺には、種類が多すぎてどれを選んでいいのかわかんねー。


「葵、もう候補は決まってんの?」


「うーん、前はフレームが細身だったから、今度は思いきって明るいのにしようかな」


「俺が払うんだから、金額は気にすんなよ」


「そうする」


「あっでも、帰りお茶するくらいの金額は残してくれよな」


「わかった」


それから葵は、いろんなメガネを手にとってはかけることを繰り返し、俺はそのたびに率直な感想を言った。


葵が悩んだあげく選んだのは、落ち着いたボルドーで、少し太めのフレームが印象的なメガネだった。


度数を調整してもらう間、店内のソファーでおしゃべりしながら待っていた。


「葵、月末の日曜日、予定ある?」


「日曜ならだいじょうぶ」


「俺、サッカー部で対外試合なんだ。


もしよかったら、応援に来てよ」


「私が行ったら、迷惑にならない?」


「なるわけないじゃん、大歓迎!」


「じゃあ、応援に行くね。


晴れたらいいね」


「あっ、残念だけど、サッカーは雨でもやるんだよな」


「そうなんだ、大変だね」


お待たせしました、と店員さんが声をかけてきた。


あらためてメガネをかけて、微調整して。


「どう・・・かな」


照れながら俺の方へ振り返った葵は、今までより明るい印象になった。


「似合ってる」


葵は照れ笑いを浮かべながら、店員の方へ向き直った。


会計をすませ、新しいメガネをかけた葵と一緒に店を出た。










< 16 / 98 >

この作品をシェア

pagetop