遠まわりの糸
本当は、カオリの質問の答えのこと、もっと聞きたかった。


葵が俺のことを、どう思ってるのか。


一緒にいるのは苦痛じゃないみたいだけど。


嫌いだったら、俺の誘いにのってくるわけないし。


でもなぜか、葵の気持ちを聞き出すのは、抵抗があった。


お互いが特別な存在でいたいと思う反面、今のままでいいと妥協したい自分もいた。



「8月に入っても、合宿とか練習とか、大変だね」


「俺のスケジュール、見てくれたんだ」


「うん、いつ図書館へ行こうかな、と思って」


「葵も夏期講習あるんだろ?」


「そうだね、だいたい合宿と重なってる」


会えない期間が長いと、その分だけ不安が残る。


その時、電車内のポスターが目に入った。


川沿いで毎年8月最初の土曜日に開催される、地元の花火大会のポスター。


いつもは、同級生みんなで行ってたけど。


ギリギリ合宿前だし、今年は葵とふたりで行きたい。


そっと葵の方を見たら、葵もポスターを見上げてた。


チャンスだ。


「葵、花火大会ふたりで行かない?」


目を見開いて、驚く葵。


「やっぱ、ふたりはダメか」


「ううん、ふたりがいい」


葵の言葉に、俺の心臓はグイッとつかまれたみたいだった。


「約束な」


「うん、楽しみにしてるね」



俺は、覚悟を決めた。


花火大会で、葵に好きだって伝えよう。


葵の気持ちを、確かめよう。


葵を、俺の彼女にしたいから。













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