遠まわりの糸
「キレイだったね」


「うん、また来年も一緒に来ような」


「もう来年の話?」


「ずっと一緒にいるんだから、来年も再来年も、ずっと一緒に来るんだよ」


「わかった」


「あれ、盛り上がってんの俺だけ?」


「ちがうちがう、私もそう思ってるから」


「約束な」




こんな風に、小さな約束をたくさんしたよな。


毎日、少しでもいいから電話しようとか。


隠し事はしないで、なんでも話そうとか。


俺は、守ってたつもりだけど。




駅に向かって、当然のように手をつないで歩いていたら、


「サク~!」


と騒がしい声がした。


振り向くと、サッカー部の連中が手を振っていた。


俺は、葵と手をつないだまま、右手で手を振り返した。


「お前ら、お似合いだぞー!」


洋介の叫び声に続いて、みんなの冷やかす声がした。


葵はとまどったのか、


「朔、だいじょうぶ?」


って心配そうだったけど、


「葵は俺の彼女なんだから、堂々としてればいいんだよ」


自信満々に答えた。


それからずっと、手をつないで歩いて。


葵の家に着いてしまった。


もう帰んなきゃなんねーんだな。


「次は、合宿のあとだね」


「せっかく彼女ができたのに、会えないんだもんな・・・」


「そうだね、さみしいよね」


名残惜しくて、何も言えずにいたら、


「朔、私の初めての彼氏になってくれて、ありがとう」


葵は笑顔で。


つられて、俺も笑った。



「今日は、慣れない浴衣で疲れたでしょ」


「葵もな」


「だいじょうぶだよ、じゃあまたね」


「うん、またな」


キスしたい気持ちを封じこめて、手を振った。





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