遠まわりの糸
いやいや。


俺にとってカオリは、ただの同級生で、マネージャーで。


ここは、カオリを傷つけるとしても、正直に思ってる通りに言うべきなのか。


それとも、葵とつきあってるから、ってやんわり断るべきなのか。



「・・・ごめん、カオリの気持ちにはこたえられない」


・・・なに逃げてんだ、俺。


「そうだよね、ごめん」


「俺、葵のことしか考えられないから。


傷つけて、ごめん」


・・・仕方ねーよな。




「カオリ!」


突然、カオリを呼ぶ声がした。


洋介が走ってきたんだ。


「・・・よ、うすけ」


そこで初めて、カオリが泣くのを見た。


「カオリ、よくがんばったな」


洋介がカオリをなぐさめてた。


「サク、察してやれよ」


「洋介、カオリ、ごめんな」



俺は、謝ることしかできずに、そのまま立ち去った。




みんなでバスに乗る頃には、いつものカオリに戻っていた。


葵に『合宿終了!これからバスで高校へ戻るから』ってメッセージを送ったあと、俺は洋介とカオリのことを考えてた。


いくら鈍い俺でも、気づいちまった。


洋介がカオリを好きで、カオリが俺を好きで、俺は葵が好きで。


誰かを好きになるのは自由だけど。


その想いが通じるとは限らないんだな。


俺は、葵と両想いになれて、幸せ者だって思った。


だから絶対に、葵の手を離さないって決めた。


洋介がカオリの傷を癒してくれたらいいんだけど。


俺のワガママだってわかってるけど、洋介とカオリがうまくいくように祈った。


こうして、俺と洋介とカオリの関係が微妙になった合宿が終わった。












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