遠まわりの糸
合宿の次の日は休みで。


母さんに言われ、大量の洗濯物を干してたたむのを手伝わされた。


葵は夏期講習だしな・・・と連絡するのをためらっていたけど、思いきって聞いてみたら、夕方に会えることになった。


夏期講習帰りの葵を、近所の高台にある公園で待っていた。


この公園は、見晴らしがよくて小さい頃からよく来ていた。


ここに、彼女と来る日がくるなんてな。


子どもの俺に教えてやりたいような気持ちになった。



「朔、お待たせ」


振り返ると、葵が笑っていた。


「葵、久しぶりだな、元気だった?」


「うん、朔は焼けたね」


「だいたい晴れてたしな。


葵は真っ白だな、今度さ、気晴らしに外で遊ぶか」


「真っ白な女子は苦手?」


「そんなことねーよ、ただ誘う口実が欲しいだけだよ」


やべ、つい本心をポロリとしゃべっちまった。


「じゃあ、今度課題をやってから、出かけよっか」


「よっしゃ、行こう!」


初デート、ってことだよな。


マジかー、どこ行こう?


映画か、遊園地か、海か、山か・・・


俺の頭の中は、一瞬で妄想だらけになった。


隣に座っている葵を見ると、一緒にいられるなら場所はどこでもいいような気がした。


葵の右手を、左手でそっと握った。


あったかくて、やわらかくて、ドキドキした。


葵もそっと、握り返してくれた。



会えない期間が、夏の空気が、ふたりを大胆にしたのか。


そっと、ふれるだけのキスをした。


「俺、葵がめっちゃ好き」


「私も、朔のことずっと考えてた」


ファーストキスが、葵でよかった。



それから、夏休みが終わるまで、時間の許す限り会うようにした。


葵のおかげで、課題もなんとか終わらせた。


会うたびにキスをして、ギュッと抱きしめた。


俺の気持ちが、伝わるように。


















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