遠まわりの糸
イルミネーションされた教会へ行くと、けっこう人がたくさんいた。


「すげー人多いな」


「そうだね、でもすごくきれい」


教会っていうこともあって、派手さはなくても落ち着いた照明だった。


イルミネーションを満喫して、写真もたくさん撮った。


念のため予約しておいたレストランへ行くと、ほぼ満席だった。


どれを注文するか相談したり、シェアしたり、おしゃべりしたり、何をしてても楽しかった。


電車で最寄り駅に移動して、高台の公園に着くまでは話が尽きなかったのに。


ベンチに座って、町中の明かりを見下ろして、


「きれいだね、自分の住んでる町じゃないみたい」


「ほんと、晴れてよかったな」


って話したら、会話が止まってしまった。


俺は、プレゼントを渡すキッカケを考えたり、そもそもプレゼントを喜んでくれるか今さら悩んだりしてたら、無言になっちゃって。


チラッと横目で見たら、葵もうつむいたまま何も話さない。


どうしよう。


このままじゃ、最後の最後で失敗しちゃうじゃねーか。


だけど、気に入ってくれるかどうかはおいといて、ふたりで過ごす初めてのクリスマスなんだし、プレゼントは渡さないとな。


勇気をふりしぼり、息を深く吸って、


「葵」


って呼んだら、葵も同時に、


「朔」


って言うから、目線が重なった。


「これ、クリスマスプレゼント」


「私も、クリスマスプレゼント」


ほぼ同時に言ったから、おかしくなって吹いてしまい、せっかくの雰囲気も台無しになった。


「ありがとう、開けていい?」


「いいよ、俺も開けるぞ」


ラッピングをほどくガサガサした音がやんだら、


「うわー、すごくかわいい!」


「おーっ、これ俺が好きなメーカーの!」


お互いの喜ぶ声が響いた。



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