遠まわりの糸
葵は、メガネケースもペンケースも、喜んでくれた。


「なんか、ケースばっかりになっちゃって、ごめんな」


「ううん、すごく嬉しい。


私がいま使ってるのよりずーっとかわいいし、私のことを考えて選んでくれたと思うと、余計に嬉しい」


そう言って微笑む葵は、やっぱりすげーかわいかった。



葵が俺にくれたプレゼントは、スポーツタオルで。


よく見たら、端っこに『SAKU』って刺繍がしてあった。


「すげー、名前縫ってくれたんだ!」


「うん、家のミシンでやっただけだけど、もし誰かとかぶってもわかるように、と思って」


俺は、葵の気配りにめっちゃ感動していた。


だから、


「葵、ありがとう」


って言って、そのまま抱きしめた。


「どういたしまして」


俺を見上げた葵に、そっとキスした。


『好きだ』という気持ちをこめて。


何度も何度も。





葵。


俺と葵は、相思相愛で。


ずっと一緒だって、俺は信じてたよ。


何度もキスして、何度も好きだって伝えて、気持ちを確かめあったのに。


なんで、俺の前から消えたりしたんだよ。


クリスマスも、正月も、バレンタインも。


この先、何年も何回も、一緒にイベントを楽しめると思ってたのに。




葵を家まで送ったクリスマス。


正月には初詣に行って、おみくじ引いたら葵が『凶』で。


『大吉』だった俺のと交換したっけ。


バレンタインは、手作りのチョコケーキをくれたよな。


あの年のバレンタインは、日曜日で。


「両親、夜まで帰ってこないの」


葵の言葉にドキドキしながら、初めて入った葵の部屋。


俺の部屋と違って、本がたくさん並んでた。


ふたり並んでベッドに腰かけて、それ以上を求めていたわけじゃないけど、そっと葵にキスしたら。


「・・・抱いて」


葵は確かに、そうささやいた。


「俺、初めてだから、上手くないよ」


「私も、初めて」


それから、時間をかけて、ゆっくりとひとつになった。


ものすごくぎこちなかったけど。


一生忘れられない。












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