遠まわりの糸
俺は夏期講習から、勉強漬けの日々を送った。


洋介は、実家が美容院だから、美容師になることに決めたらしい。


前は『俺は親の言う通りにはならねー!』なんて言ってたけど、いろいろ悩んで『手に職をつけることにした!』って宣言してた。


カオリは、女子大の推薦をもらえそうだって喜んでた。


高校で3年間過ごしたあとは、みんなバラバラな進路を選んでいく。


葵は転校しなくても、進路は別々だったはず。


なのに、いまそばにいないっていうのは、やっぱさみしい。


葵のことを考えない日はなかった。


勉強してる時は忘れられても、ふとしたことで葵のことを思い出した。


葵が教えてくれた公式。


葵とお揃いで買ったシャーペン。


葵が好きだった紅茶。


でも、葵とキスした公園には、行かなくなった。


思い出すのが、つらいから。



葵のことを思い出しながら勉強して、なんとか志望校に合格できた。


合格ライン上だったすべり止めには不合格だったのに、たまたま得意分野が出題された志望校には受かった。


先生も家族も友達も、みんな驚いてた。


俺の普段の成績を知ってる人は、信じられないだろうな。


カオリも推薦が決まったし、洋介も専門学校へ入学することになった。


葵は、希望の国立大に合格しただろうな。


葵に電話したけど、やっぱりつながらなかった。


あれから何通送ったかわからないメッセージも、『大学受かったよ』って送ったけど、返信はなかった。


葵のおかげで合格できたから、お礼を伝えたかった。


葵。


お互い、新生活が始まるんだな。


会えるって信じてるから。




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