遠まわりの糸
洋介を問いただしたら、その女の子は男女問わず誰にでも腕を組んだり手をつないだりする子らしい。


カオリがヤキモチやいてるぞ、って忠告しといた。


あの二人は、そのうち元に戻るだろう。




葵のことを忘れたことはない。


だけど、思い出す時間は少しずつ減っているのかもしれない。


花なんて、桜とチューリップくらいしか知らなかった俺に、葵はいろいろと教えてくれた。


葵は、9月下旬にいい香りをふりまくキンモクセイが好きで、


「将来住む家にはキンモクセイ植えるんだ」


なんて言ってて、


「じゃあ、俺が30年ローンで建てる」


俺がのっかると、照れたように笑ってたっけ。



俺が大学近くのカフェでバイトしてた時、よく同じシフトに入ってた女の子から告白された時も、少し心が揺らいだ。


このまま、彼女ナシの青春を送っていいのかと思ったり。


結局断ったけど、いづらくなってバイトを変えた。



平凡な大学生活も2年目に突入して、夏休み中ずっと海の家でバイトしてた俺に、洋介が電話してきたのは9月初め。


『サク、明日の夜あいてる?』


『あいてるけど、なんで?』


『じゃあさ、19時に池袋西口な』


『えっ、なんで池袋?』


池袋は洋介が通う専門学校からは近かったけど、俺が通う大学からは離れていたから。


『いいからいいから、黙って俺についてこいって』


洋介に押しきられる形で、明日会うことになった。




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