遠まわりの糸
メガネかけてないし、化粧もしてるけど。


紫のドレスを着て笑っているのは、葵だった。


隣に座ったサラリーマン風の男と、楽しそうに話している。


「葵、なんで・・・」


やっとつぶやいた俺に、洋介が話し始めた。


「専門学校の男友達数人と一緒につきあいで来た時に、泉川をみつけたんだ。


詳しいことをこの二人に聞いたら、どうも泉川もワケありでキャバ嬢やってるらしいぞ。


泉川と二人にしてやるから、ゆっくり話せよ」


洋介は、同級生の女子二人に目配せすると、間もなく葵が背後から近づいてくる気配がした。


「こんばんは、アオイです」


目が合った瞬間、葵の表情が一瞬にして曇った。


営業スマイルする余裕もなく、ドリンクを作ることも忘れて、呆然としていた。


「葵、ひさしぶり」


「・・・うん」


「驚いたよ」


「そう・・・だよね」


「洋介の友達がここでバイトしてて、前に来たときに葵を見かけたんだって。


っていうかさ、戻ってきたなら俺に連絡してくれよ、俺は待ってたんだぞ・・・ずっと」


「察してくれないかな」


「えっ?」


葵が急に強い口調になったから、驚いた。


「この店で、朔には一番会いたくなかった。


私がこの仕事をしてること、一番知られたくなかった」


そう言うと、涙が一筋こぼれた。


「ごめん」


洋介が慌てて、その場を取り繕うようにしゃべり始めた。


「にしてもさ、泉川、源氏名が本名ってどーなの?」


「・・・店長が、そのままでいいんじゃない?って言ったから」


「サクさ、泉川が引っ越してからめっちゃ勉強してさ、奇跡的に大学受かったんだぜ」


「おめでとう」


その時だけ、葵の表情が少し明るくなった気がした。


「ありがとう。


葵、今日このあと何時に終わる?


店の外でゆっくり話したいんだ」


「今日はちょっと無理かな」


葵のしぐさを見て、嘘だって気づいたけど、気づかないふりをした。


「じゃあ、今の連絡先を教えてよ。


休みの日教えてくれれば、会いに行くから」


たぶん個人の携帯じゃないだろうけど、教えてくれた。











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