遠まわりの糸
彼女が嘘をついた
「どうぞ」


「お、お邪魔します」


室内は、必要最低限のものしかない、シンプルな部屋だった。


「コーヒーしかないけど、いいかな?」


「いいよ」


どうして葵が一人暮らししているのか。


両親はどうしているのか。


なんでキャバクラで働かなきゃいけないほど、お金が必要なのか。


頭の中は疑問でいっぱいだった。



「お待たせ」


「サンキュ」


湯気がふわふわ舞う中で、葵はまるで湯気と一緒に消えてしまいそうなほど弱々しく見えた。


部屋の様子からも、贅沢をしてる感じはないし、今時の女子大生が好みそうな物は何もなかった。




俺から質問責めすることは避けたかったけど、沈黙がつらくなって口を開いた。


「メガネ、かけなくなったんだな」


「バイトの時はコンタクトにしてるの、メガネだとお化粧うまくできないから」


「葵は、こっちに戻ってきてから一人暮らし始めたの?」


「そうだよ」


「お父さんの仕事の都合で引っ越したのに、両親は一緒に暮らしてないんだ」


「うん、ちょっと・・・事情があって」


「それって、話したくないこと?」


「うん、できれば」


「俺は、何があっても変わらないから、話してほしいけど」


「朔はきっと、私を軽蔑すると思うよ」


「しないよ」


「どうして言い切れるの?


2年以上会ってないのに、私がこの2年で変わってるかもしれないのに」


「俺の葵が好きな気持ちは、何があっても変わらないから。


一人で抱えこんでるのはツライだろうから、話せば楽になれるかもしれないだろ」


「・・・わかった、朔を信じてみる」


そのあと葵が話し始めたことは、俺から言葉を奪うほどの内容だった。


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