遠まわりの糸
「朔は優しいね」


葵は背中を向けたまま、つぶやいた。


「ありがとう、考えてみる」


「葵、もうどこにも行くなよ」


「行かないよ、行けるとこなんてないし」


「どっか行っちゃいそうで不安なんだよ」


「朔は心配性だね」


「ずっと会いたかった葵がここにいるのが、まだ信じられないんだ。


なんか夢みてるみたいで」


「そんなことないし」


「葵、もう俺から離れるなよ」


「朔、ほんとにほんとに私でいいの?」


「葵じゃなきゃダメだって」


「この2年、誰ともつきあってないの?」


「つきあってない」


葵はそこで、突然振り向いて俺と向き合い、


「でも、誰かに告白されたでしょ」


探るような目で見上げられた。


何も言えずに黙っていたら、


「図星でしょ」


イタズラっぽく笑われた。


「ごめん、でも断ったから」


観念して白状した俺に、


「告白もされないような人とはつきあえないもん」


葵は冗談っぽく言った。


「・・・それって、俺とつきあってくれるってこと?」


遠回しに気持ちを伝えてくれてるんだと思った。


照れたように目を背ける葵の頬を両手ではさんだ。


「そうだって認めねーと、キスするぞ」


「さっきだって勝手にキスしたくせに」


まだ何か言いたそうな葵の唇に、何度もキスした。


「俺だけの葵」


「朔、キスしすぎ」


「今までできなかった分」











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