遠まわりの糸
確かに、葵と離れてから、他の誰かを好きになることはなかった。


意図的に恋愛を避けていたわけじゃなく、亮太や奏と合コンしたりもしたし、バイト先でかわいいと思う子もいないわけじゃなかった。


だけど、どうしても葵のことを忘れられなかった。


どこかで、葵と比べてしまう。


ふとした瞬間に、葵のことを思い出す。


桜が満開の並木道。


葵が好きだったキャラクター。


一緒に映画館で観た映画が、地上波でやったり。


キンモクセイの香りに気づいたり。


忘れられるわけないんだよな。


あんなに好きで、本気だったんだから。



いつか、葵のことを思い出さなくなるんだろうか。


誰か別の人を、好きになれるんだろうか。



「ま、お互いそのうちいい人が現れたら、紹介しようぜ」


「そのうちな」


洋介もきっと、カオリが忘れられないんだろう。


世の中こんなにたくさんの人がいるのに、めぐりあわないもんだよな。


明日出会うかもしれないけど、来年も出会わないかもしれない。


そんなの誰にもわからないんだから、考えたって仕方がない。


いつか、葵のすべてを思い出に変えられる日がくることを祈るだけだった。












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