遠まわりの糸
誰も知り合いがいない入社式。


新調したスーツに身を包み、同じ新入社員の顔ぶれを見た。


最初の挨拶のあと、会話が続かない。


今年の採用は10名で、事務系が3名で全員女子。


他男子7名は、コーチなのか裏方なのかまだわからない。


いずれにしろ、新入社員はみんな1ヶ月は研修続きで、社会人としてのマナーをはじめ、社内のコピー機の使用方法や規則まで細かく教えられる。


4月になると、街中でいかにも新入社員っていう団体がウロウロするのをみかけたけど、これだけ一緒にいれば同期でまとまるのも納得できる。


名刺交換やメールの常識ある送付方法やパソコン講座や、とにかく覚えることばっかりだった。


研修が進むにつれて、同期のみんなと仲良くなり、入社式の緊張はほぐれていった。


そして、研修最終日は、いよいよ所属発表。


女子はそのまま、総務や経理に割り振られた。


そして俺は、希望していた小学生チームのサッカーコーチ見習いとして、横浜支店所属になった。


同期のうち、丸山慎一(まるやましんいち)と木村朱里(きむらあかり)も横浜支店だった。


「橋本くん、丸山くん、よろしくね」


「よろしく」


「木村さん総務か、何かあったら頼むよ。


橋本ってコーチの経験ありだっけ?」


「いや、ないけど」


「俺もないからさ、よろしくな」


「コーチの経験ないのに、なんでこの部署なんだろう」


「橋本、教員免許もってない?」


「もってる」


「俺も」


「なるほどね」


教職課程、受けといてよかった。













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