遠まわりの糸
「来週の土曜、サッカーの試合観に行かない?


チケットもらったんだけど、慎一は都合悪くて、朱里はどうかなって」


社食で一緒になった朱里を、思い切って誘った。


本当は、もらったんじゃなくてわざわざ買ったチケットだし、社食で隣の席にしたのも偶然じゃないけど。


「土曜はあいてるけど、丸山くんが都合悪いから二番手の私ってこと?」


「いや、その・・・朱里が二番手ってことじゃなくて、えっと」


「冗談だよ、ちょっとサクに意地悪したくなっただけ」


「じゃあオッケーってこと?」


「うん行こう、何時にどこで待ち合わせ?」


和やかに話していたけど、実際は心臓バクバクもんだったし、手汗が半端なかった。


デートに誘うのって、こんなに緊張するもんなんだな。


朱里はデートって意識してんのかな。



葵以外の女子と、プライベートの時間を過ごすのは初めてだった。


葵は今、どこで何してるんだろう。


今年の3月には大学を卒業して。


夢だった先生になって、充実した生活送ってるはず。


葵は、俺のこと思い出したりしてないよな。


心の傷を癒すのは時間だっていうけど、まだ浅い傷が残ってて、時々チクリと胸を刺した。




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