遠まわりの糸
俺がまた無口になったから、さすがに二人とも気になったようで。


「サクどーしたんだよ、まさかもう酔ったのか?」


「なんかあるなら話せよ」


「悪い、たいしたことねーから」



一瞬、本当のことを話そうかと迷った。


葵は、俺の元カノで、大学の時に再会した人で。


今でも好きだって。


でも、それは同時に、亮太を傷つけることになってしまう。


かけがえのない友達を失うことになってしまう。



だから、言わないことにした。


言わなければ、俺が朱里のことだけみてれば、丸くおさまるんだから。



「あー、少し酔ったかもな。


久しぶりに会って、ピッチ速かったかも」


「そっか、無理すんなよ」


「サクにしては珍しいな、大丈夫か?」


本当は、まったく酔っていなかった。


こんな状況で、酔えるわけねーし。


亮太に抱かれる葵を想像してしまい、イラつく俺がいるし。


葵はもう、亮太のもんなんだから、あきらめろ。


自分に言い聞かせるけど、むなしくなるだけだった。


遅くても夏休みには札幌へ行く約束をして、家路についた。








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