遠まわりの糸
「ここです」


泉川の家は、うちから歩いて5分くらいの一戸建てだった。


「送ってくれて、ありがとうございました。


自転車置きますので」


「何言ってんだよ、俺らで運ぶよ」


ガレージへ自転車を運び入れていたら、玄関のドアが開いた。


「葵、帰ってたの?」


「ただいま」


「こんにちは、同じクラスの和田洋介です。


こいつは隣のクラスの橋本朔です」


洋介、ほんと、ずうずうしいっていうか、なれなれしいっていうか・・・


でも、ちょっとだけ、うらやましい。


「えっ、いやだ、朔くん?


ちょっと、すっかり大きくなっちゃってー!


おばさんのこと、覚えてない?


あっ、覚えてるわけないわよね、10年以上前のことだもんね」


早口でまくしたてる泉川のお母さんに、俺たちはポカーンとしてしまい、さすがの洋介も何も言えなかった。


「あら葵、メガネどうしたの?


こんなところで立ち話もなんだから、もしよかったら上がって」


お母さんの勢いにのせられて、お邪魔することにした。


「どうぞ」


泉川は、しぶしぶって感じはしたけど、俺たちを招き入れてくれた。


それにしても、泉川とお母さん、全然似てない。


顔は似てるけど、同じ家で暮らしてて、こんなにも正反対の性格になるんだろうか。


いやいや、まずは、10年以上前の俺を、なんで泉川のお母さんが知ってるかだ。


小学校は違うし、習い事にも泉川がいた気はしないし。



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