遠まわりの糸
「おじゃまします」


リビングに通され、ソファに座る俺たちに、お母さんがお茶を運んできてくれた。


「ごめんなさいね、たいしたものないんだけど。


ところで、どうして葵と一緒に帰ってきたの?」


きた。


ここで、誠意をみせなきゃ。


泉川にボールをぶつけたのは、俺なんだし。


だけど、やっぱり先に話し出すのは洋介で。


「実はですね、サクの蹴ったボールが、葵さんの顔面を直撃しまして。


メガネが壊れてしまったんです」


「あらー、葵、ケガは?」


「だいじょうぶ」


「本当にすみませんでした!」


さすがに、俺もこれくらいは言える。


「いいのよ、たぶん葵がボーッとしながら歩いてたんでしょ。


送ってくれて、謝りに来てくれたんだから、それで充分よ」


そこで、お母さんの携帯が鳴り出した。


「ちょっとごめんなさい・・・もしもし、うんそうなのよ、いまうちにいるのよ、もうビックリしちゃって!


なんかね、朔くんの蹴ったボールが葵の顔面に当たったらしいのよ。


・・・えっ、ううん、ケガはたいしたことなさそうなの、メガネが壊れただけで。


・・・いいのいいの、弁償だなんて、そろそろ新しいのにしようと思ってたし。


・・・ほんとにいいのよ、気にしないで。


・・・えっ代わるの、うん、わかった、ちょっと待ってね」


誰と話してるんだ?


友達って感じだよな。


で、なんで俺の名前出してんだ?


ハテナマークだらけの俺に、お母さんは携帯を差し出した。


「はい、代わってほしいそうよ」


「えっ、誰ですか?」


「さあ、誰かしらねー、フフッ」



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