遠まわりの糸
梅雨明け間近の7月。


突然、亮太から電話がきた。


「サク、明日の夜はなんか予定ある?」


「ないけど」


「年末飲んだ居酒屋に19時でいいか?」


「わかった」


「じゃあ、明日な」


めっちゃ短い会話だったけど、葵のことで話があるんだろうって察しはついた。


亮太と葵の間で、決着がついたのかもしれない。


朱里は、つきあっていた頃と何も変わらず接してくれていた。


何も知らない同僚から見たら、別れたなんて思われないだろう。



亮太と待ち合わせする日は土曜日だったから、夕方までサッカークラブの練習。


慎一にだけは、亮太と会うことを話していた。


「ここまでこじれたんだから、とことん話してこい」


慎一の言葉は、俺の背中を押してくれた。


シャワー浴びて着替えて、居酒屋へ向かった。


亮太は、奥のテーブル席に座ってスマホをいじっていた。


見た目は以前と変わらなかったけど、俺に気づくと鋭い眼差しを向けてきた。


「亮太、ごめん」


「謝るくらいなら、奪うなよな」


「奪おうなんて思ってなかったんだ。


ただ、自分の気持ちに正直に行動しようと思っただけで、でも結局、それがいろんな人を傷つけることになったと反省してる」


「反省するようなこと、すんなよな」


「ほんと、ごめん」


「サクは、意外とワガママだよな」


「自分でも、大人げないと思う」


「いいんじゃん、今時そういう風に押しきるのも」


「もう亮太とは前みたいに戻れないだろうな、って覚悟決めてきた。


殴って気がすむなら殴っていいし、友達やめるっていうなら仕方ないし」


「勝手に俺の気持ちを決めんなよ。


もういいんだ、葵ちゃんとは別れたから」







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