遠まわりの糸
「葵・・・」


「亮太くんが『サクと話ついたから、会いに行けよ』って」


「座って」


「うん」


久しぶりに会った葵は、相変わらずかわいかった。


「もう連絡こないのかと思ってたよ」


「ごめんなさい」


「亮太、最初っから今日葵と俺を会わせるつもりだったんだな」


「そうだと思う」


亮太、サンキュー。


おまえって、ほんといいヤツ。


亮太にもらったチャンスを無駄にしないよう、葵とよりを戻してみせるから。



「葵に、聞かなきゃいけないことがあって。


雨の日、店先で偶然会っただろ?


葵は、男と腕組んで出てきた。


それから、連絡がつかなくなった。


あの男とつきあってたわけ?」


「何言っても言い訳にしか聞こえないと思うけど」


「言い訳でもいい」


「あの人は、働いてたキャバクラのお得意様で。


接待で使ってもらううちに、妙に私と気があって。


でも、つきあうわけじゃなくて、なんていうか、友達っていうか、似た者同士って感じで。


いろいろ愚痴を聞いてるうちに、奥さんが離婚届に判を押してくれない、そのくせ探偵を雇って俺を監視してるって話があったの。


その人も探偵を雇って奥さんを調べてたんだよね」


「すげーな、探偵の探偵かよ」


「で、浮気現場をおさえられれば離婚してくれるかも、ってことになって。


私がサクラで浮気相手になったの」


「世の中、いろんな人がいるんだな」


「でも、私は一番見られたくない朔に見られちゃった。


これ以上、朔を傷つけたくなかった。


神様が、朔から離れるように仕向けたんだって思った。


だから、黙っていなくなった」


葵の言い訳が嘘だとしても。


俺は、葵を信じることに決めた。







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