遠まわりの糸
葵と、初めて二人で過ごしたクリスマス。


教会でイルミネーションを見て、食事して。


今日は、あの日と同じように過ごすって決めていた。


教会で待っていると、葵が走ってきた。


「お待たせ」


息を少しはずませて現れた葵は、高校生の時よりも大人びて、きれいになった。


「葵、こっち」


どちらからともなく手をつないで、イルミネーションを満喫した。


当時は緊張して入ったレストランも、今の年齢になったらなんてことない。


食事とワインを楽しんで、ゆっくり時間を過ごした。



このあと、俺は思い出の公園でプロポーズしようと思っていた。


レストランを出る頃にはガチガチに緊張してて。


「葵、あの公園行かない?」


って誘った声も、情けないことにうわずっていた。



葵はいま一人暮らしで、俺は実家暮らし。


たまに葵のアパートで朝まで過ごす。


二人で築いてきた時間を積み重ねて、今日を迎える。



「葵」


「うん?」


「俺が、キンモクセイがある家を30年ローンで建てるから、一緒に暮らそう」


「そうなったらいいね」


・・・俺のプロポーズ、通じてない?


ただの、夢を語る男になってる?


やべっ、もっとストレートに言わなきゃ伝わらねーのか?


俺は、パニックになって、無言になっちまったけど。


勇気を振り絞り、葵の顔をみつめた。




< 95 / 98 >

この作品をシェア

pagetop