アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



細やかな赤い絹糸の細工物や宝石の瓔珞(ようらく)で飾られたその姿は人形のようだ。結い上げた髪や長い睫毛にふちどられたガラス玉のような瞳が美しい。
金糸で鳥や花を刺繍した赤い綴(つづ)れ織りがアジアの着物の雰囲気を感じさせた。

赤い着物。

その印象のために、私は何の疑問もなくその子どもを女の子だと思た。赤い着物を着る男の子は日本ではあまり見たことがないから、無意識にそう判断したのかもしれない。


「カガンの女の子って可愛いんですね」


カガンティーを置きながら思わずそう発した途端、お客さんは苦笑した。

「女の子じゃないねー、このお方はアエネアス・ミハイル・ユスティニアノス・ハザール・カガン様。
ハザール・カガンの第一王子ですね。我々の君主になる人。
カガン人の前では王族の話題には気をつけてね、カガンは度々大国の属領となることが多かったから、ユスティニアノス7世以降の王族は神様と同じ」


私は眉を上げた。

神様とは大げさな。
けれど、こちらも客商売なので素直に頭を下げた。


「そうなんですか、知らなくて。すみません」

「僕らはいいんだよー、日本人、人間と神様は別ね。でもカガンでは気をつけてね。フ……なんだっけ」

「不敬罪ね」


別のおじさんが助け舟を出した。

「それ。王様とか王子様に失礼なことを言うの駄目ねー。カガンそういう国」


彼は鷹揚に笑ってまた雑誌に視線を落とした。

カガン人の王子様、か。生まれながらにして神様扱いをされるなんて、羨ましい話だ。
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