アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
少し食材を買い足すだけのつもりで出かけたのに、いつの間にか荷物はかなり増えていた。
ミハイルはカートを取りにいった。それが身にしみついた礼儀なのか、王子なのに彼の行動は私のアシスタントみたいだった。
少し離れたカーと置き場には知って行く彼のすらりとした後ろ姿を見つめていると、すぐそばに人の気配を感じた。
通路の邪魔になったのかと謝りながら端に寄ると、相手は私の顔を覗き込んできた。
「ああ、やっぱり。遙だ」
どこか聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには見知った顔の男がいた。
昔、同じ会社で働いていた蒔田修二だと気付くまでそれほど時間はかからなかった。
私が衝動的に会社をやめてもう何年にもなるのに、彼はあまり変わっていなかった。
「遙、久しぶりだなあ。元気だった?」
彼は数ヶ月ぶりに顔を合わせるような気楽な笑みを浮かべた。
会わずにいた年月の長さを少しも感じさせない彼の親しげな態度につられて私も微笑んだ。
「うん、蒔田君は」
そう友達のように返事をしたものの、彼と私は友達ではなかった。