アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はそれきり忙しさにまぎれてその、女の子のように可愛らしい王子様のことはそのまま忘れてしまった。
カガン人は確かに私の店をよく利用してくれるが、それは庶民のカガンに限った話だ。
私には王子様なんて一生拝む機会もないだろう。
王族がこんな小さな店を利用することはまずないだろうし、私がカガンを訪れることもたぶん一生ない。だって私は観光地として有名なハワイにすら行った事がないし、パスポートも作った事がない。そんな余裕もない。
所詮雑談にすぎない。そう思っていた。
その時の私はまだ、自分を待ち受ける運命に気付きもしていなかった。
一生この店で働き、そして昨日までと同じように今日を生きる。
私はそれが自分の運命だと思い込んでいたし、それまでどおりに生きることは自分に与えられた当然の権利であるとさえ思っていた。
その写真を見た日からどれほど月日が過ぎただろうか。細かな記憶はない。それほどにそのカガン人との会話は私にとって些細なことだった。