アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
自分の姉妹の顔も知らないなんて。
いくら外国のこととは言え、私は驚いて思わず口元に手をあてた。
しかし彼はそのことを悲しいこととは全く思わないようで、むしろ懐かしそうな表情を浮かべていた。
彼は王族だからそのことを自然に受け入れているのだろうか。
それともカガン全体の文化として男女を分けるのが当たり前なのだろうか。
日本でも昔は男女七歳にして席を同じうせずといわれたものだが、それはせいぜい明治大正、それに昭和初期くらいまでの話で、今はその習慣は絶えて久しい。
私の小さい頃はまだ子どもたちの中で「男の子とは遊ばない」「女の子と人形遊びをしてもつまらない」という意識がわずかに残っていたけれど、今の小学生は男の子、女の子で好む遊びの種類さえ同化して、男女を分けていた見えない壁がどんどん小さくなっている。
世界の中にはまだまだ男女を厳しく分けて暮らす習慣が残っている国は多いのだろうか。
「みんなそうなの?」
「みんな、とは?」
「王族じゃなくて普通の人の話。カガンでは例え同じ親から生まれた兄妹でも、性別が違えば離れて暮らすの?」
王子は首をかしげた。
「そう……そうなのかな。
貧しい家は男女を分けるほどの部屋もないけれど、少しでも豊かならば、分かれて暮らす。女の子は母親に刺繍や料理を習わなければいけないし、男の子は……学校に行く」
「女の子は学校に行かないの?」
ミハイルは表情を曇らせた。
「そう、行かない。毎日女の子が同じ時間に外に出るのは危ないんだ。
男はみんな10歳にもなれば親から刀を持たされ家族を守ることを覚える。カガンは今でもよく女の子が攫われる」