アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
12
正月気分も三日まで。アルバイトも雇えない小さな店はそうそうゆっくり休んでもいられない。
私は四日から店を開けた。
今年はどうしたことか雪が多い。例年にない雪のせいでお客は少なかった。
早めにモーニングが終わりそうだな。
普段よりもだいぶ少なめにモーニングの準備をしていると、店の入り口のベルが鳴った。
反射的に水をトレイにのせながら振り返ると、ちょうど蒔田君が入り口のあたりで靴から泥まじりの雪を落としていた。
「……や、おはよう」
彼は少し照れくさそうにそう言って軽く手を挙げた。
今日の彼は仕事ではないのだろう、コートの下は脇に毛玉のできた灰色のニットとデニムの姿だった。
「おはよう、寒かったでしょ」
彼は冷えた手をこすりながら答えた。
「うん、凍えるかと思った。モーニングある?腹が減って倒れそう」
「朝ご飯も食べてないの」
「台所に立つのが面倒でさ。ついビールとつまみで済ませちゃって」
「そっか。たまに面倒になるよね。私は職場に食べるものが一杯あるけど、蒔田君はそうじゃないもんね」
彼はコートを脱いでカウンターの席に座った。厨房から一番近い席だ。
「ここ、すごいな」
彼は顔を動かして店内の様子を眺めた。
「え?」
「ポトス……だっけ?これ。
よくこれだけ同じような斑(ふ)入りの物を集めたね」
ポトスという植物は葉がライムグリーンになるものや葉がくしゅくしゅと皺になるものなど園芸品種がたくさんある。私の店に飾っているのはすべて葉に白い斑が入るものだ。一つの株だったものを増やしていっただけなので自然と同じ斑入りのポトスばかりを飾ることになったのだが、その経緯を知らない蒔田くんから見れば、私がこだわりをもって同じ種類のポトスを集めたように見えたのだろう。
「集めたんじゃないよ。最初は一鉢だったのがいつの間にか増えたの。いくつか持って帰る?」
私はここぞとばかりにもてあましているポトスを蒔田君にまで押し付けようとした。
「いいよ、一人暮らしだからろくに世話もできやしない」
「ポトスは強いよ。蒔田君でも十分世話ができると思う」
彼はそれを聞きながら苦笑した。