アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
バイトをする、か。
ミハイルが出かけている時間を見計らって財布の中からレシートを出しながら丼勘定をしてみると、やはり今月も赤字だった。
人一人が増えたくらいでぐらついてしまう自分の暮らしが情けない。同世代の知人には妻子を養って暮らしている人も珍しくないというのに。
ため息をついた私だが、しかし決してそこで気力が萎えたわけではなかった。
絶対になんとかする。
出て行けなんて絶対に言わない。
頼るべき場所のない彼にそんな事を言うなんてこと、絶対にしない。
今までずっと流されるままにフラフラと生きてきた私なのに、ついそんな強い気持ちを抱いてしまう。
新卒で入った会社はちょっと面白くないことが続いただけでやめてしまったし、恋人と別れる瞬間も恋人そのものが惜しいというよりも自分が他人と比較されたことを怒ってあっさり恋人を手放した。
私の人生には他にもっと大事にすべきことがあったような気がするのに、それらはごみのように捨てておいて、血縁でもなければ恋人でもないミハイルに対しては随分と肩入れしてしまっている。
私はもうとっくに自分の異変に気付いていた。ただ、気がつかないふりをしていただけ。
私はおかしくなっている。
私らしくない。
そう自覚しながらも、私は自分の中にわいて出た意地と呼んでもいいほどの強い気持ちが心地よかった。
誰かの盾になる……とまではいかないけれど、溺れる誰かの藁(わら)になるということはこんなにも気持ちがしゃんとするということなのだ。