アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
ミハイルが少しでも長くここにいてくれたら。
それが彼のためにも私のためにもならないということは分かっているのに、それでも彼と一緒の暮らしは楽しかった。
私達は会話がはずむわけではない。特に仲がいいという事もない。それでも彼の静かな物腰や凛としたその姿は私に一種の安らぎをもたらした。
気を許した誰かが家の中にいる。
その事が私には嬉しかった。
ただお金がないということのためにこの喜びを失うことになるのは嫌だった。
どこかでもう一つ仕事をしよう。
今なら会社員でもやれそうな気がする。
今までずっと駄目だった私でも、今なら人並みの働きができそうな気がする。
小さく頷いて、新しい仕事を探すべくパソコンを立ち上げたその瞬間、外階段へと続く勝手口のドアから、かすかなノックの音が聞こえた。
壁掛け時計を見上げると、時計の針はもう夜の11時半を指していた。
「ミハイル、」
こんな雪の夜に遅くまで出歩いて、また熱を出したらどうするんだろう。