アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

立ってドアをあけると、そこにいたのはミハイルではなく蒔田君だった。
長いマフラーを何重にも顔に巻いて、夜の寒さに首をすくめた彼は濃い酒の匂いを漂わせていた。


私は予想外の客に驚いて数歩うしろに下がった。

「蒔田君」

彼は赤くなった目元に笑みを浮かべた。はっきりとした形のいい目元に笑い皺が刻まれた。

「遙ぁ……」

「どうしたの、こんな時間に。酔ってるの」

「ん……。今日は新年会……」


そういうことか。

会社員生活から早々にドロップアウトした私には新年会はない。しかし会社員である彼には忘年会も新年会もある。営業である彼にとってはそういう場もほぼ仕事のようなものだ。

蒔田君は開いたドアにもたれかかるようにして体を支えた。セットの崩れた前髪に雪がはらはらと絡んではゆっくりと溶けていく。


「何か食わせて……。金は払うからさ……」

かなり飲んだのか、蒔田君の足元はふらついている。変えるように促そうにもこれでは一人でまっすぐ帰る事ができるのかわからない。

「飲んできたんでしょ?新年会で何も食べなかったの」

「食ったけど……お茶漬け食わないと、締まらないだろ……お茶漬けだけ……」
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