アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「一人暮らしなのに鍵を開けておくなんて、危ないと思わない?」
「ミハイル、……どうしたの……。また怪我をしたの……?」

ミハイルが、一度出て行くと決めた場所に再び戻ってきた。
それはプライドの高い彼にとっては辛いことに違いなく、それをおしてまで戻ったということはやはり何かがあったということではないのか。


「ちゃんと答えて。危ないと思わないのか」

彼は私のほうに一歩踏み出し、調理台にのせた私の手首をつかんで逃げないようにぎゅっと押さえつけた。
大きく、骨ばった彼の手は思わず身震いしてしまいそうなほど冷たかった。今の今まで水仕事をしていた私よりも冷たい手。
彼はあれからずっと外にいたのだろうか。

「だって、鍵は」

私は口ごもった。
だって、ミハイルは行くあてなんてないでしょう。
それを言ってしまえばプライドの高い彼はひどく傷ついてしまう。

冷え切って青白くさえ見える彼の目元がさっと赤く染まった。
彼は恨みのこもったまなざしで私を見ていた。

「あなたは今日、愚かなことばかりしている。ここをあけたのがもし僕じゃなかったら?」



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