アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
ミハイルが私の顔を覗き込んだ。
その目には怒りと、そして情熱が滲んでいた。
「僕は、あなたのことが、」
「ミハイル、おなかすいたでしょ?夕食、あたためなおさなきゃ」
私はミハイルを避けるように横をむいて話をそらした。もちろん彼がなにを私に伝えたいのか、それはわかっていたが、聞くのが怖かった。
そんなことを聞かされても私には何もできない。私は無力で臆病で、親の真似をして生きることしかできない人間だ。
私は作業台の上に押さえつけられた自分の手に目をやった。
「ミハイル、離して……。料理ができないよ」
一人になるのは嫌だった。
けれど、ミハイルの気持ちに向き合う勇気もなかった。今の状況を変えるのが怖かった。
「……あなた、不愉快な人だ。優しいだけで、どこにも自分ってものがない。
……臆病すぎる」
彼はそう言いながら、苦しさに耐えるように私を見つめていた。
彼は冷たい水で濡れた、大きな手で私の肩に落ちる髪をつかんで引き寄せた。